精子バンクから経済的な弱者を考える

アメリカには精子バンクというものがあり、ドラマ等にも度々登場する。女性には男性と違って子供をもつタイミングにハードリミットがある。男性にもあるが、成功していたり、容姿が優れていたりすると、リミットを伸ばせる可能性があるが、女性の場合は切実だ。

2023年日本初の精子バンクが活動を休止した。生まれてくる子供の出自を知る権利や精子バンクの位置づけ等の法整備が進まないこと等が背景にあるらしい。

精子バンクというのはどうしても子供の欲しい女性にとっての救世主だ。今ボーイフレンドのいない妙齢の女性にとって、マッチングアプリや友達の紹介等を経て、異性と出会い、デートを重ね、恋人同士になり、結婚して、子供を作るというプロセスは気が遠くなるプロセスだ。そのプロセスをかなり短縮できるのが精子バンクだ。

精子バンクが機能しない場合、非公式に売買されることになる。精子の提供者のバックグラウンドチェックも自分で行うしかない。病院での対応と比べ、衛生的にも問題がありそうだ。

デメリットとしては、生まれてくる子供が異母兄弟と知らず知らずのうちに出会い、恋に落ちる可能性がある点は挙げられる。本当の父親に出会い、恋に落ちる事例もあるようだ。但し、今でも養子は同じリスクがある。出自を知る権利を整備し、血縁関係を確認ができれば、リスクは緩和できる。また1人の父親が提供できる精子の数を限定することも考えられる。デメリットがあるからメリットを無視するのはナンセンスだ。特に少子化が問題となっている中で、市町村がお見合いイベントまで開催して「普通の」結婚をさせて、子供を産ませる。それよりもよっぽど効率が良いのではないか(そもそも国や市町村がこうした介入をすることには閉口するが)。

また経済的な弱者を搾取するという指摘もあり得るだろう。誰が精子を提供するかといったら、経済的なニーズがある者ではないか。確かに嫌がる男性に無理やり提供させることはあってはならない。また何らかの方法で入手した精子を第三者が勝手に提供することもあってはならない。密室で採取される精子が本当にその人のものなのかの確認は必要になる。しかし思考力のある大人の男性が経済的な理由で精子を提供することは問題なのだろうか。メリットがデメリットを上回ると判断した結果ではないのか。お金を得るには何かを犠牲にする。大抵の人は時間だが、それがこの場合精子になる。

思考力のある大人の女性がセックスワーカーとして働く場合も同じだ。セックスワーカーの場合発達障害のある人が搾取されていたり、他の仕事に従事できず、他に選択肢がない中、精子提供よりは身体的な負担が大きいサービスを提供することになる等、問題はより複雑だが、お金を得る手段として自発的に選択しているのであれば、それは本人の選択とも言える。

ベーシックインカムが実現された世界では、精子提供者もセックスワーカーもいなくなるかもしれない。それはそれで素晴らしい。だけどそれまでは現にそれに従事する人を守るための法整備をするべきではないか。