おひとりさま

ひとりで食事をすることは特段珍しいことではない世の中になって久しい。ひとりで食事をしていて奇異の目で見られることはほとんどない。内心思っていても声に出すような人は滅多にいない。その滅多にいない人に出会ってしまった。

美味しいと有名なお店に初めて訪れた。遅いランチだったため、店内はがらんとしている。年配のカップルと家族連れが1組ずついるだけだった。家族連れの女は甲高い声で高笑いをしているとは思ったが、特に気にせず食事を待っていた。その時その甲高い声が言うのだ。ひとりでご飯なんてと。美味しいねって話せない食事は侘しいといった類のことを。それは悪意を持って私に向けられたものなのか、私がどう思うかなんて到底考えられないぐらい視野が狭い人間が自分の意見を述べただけなのかは分からない。

どちらにしても浅ましい女で、気にするに値しないことだけは確かだ。それでも食事を台無しにするぐらいの破壊力はあるのだ。さっさと食事を済ませて店を出て思う。あのような浅ましい人間はどこかで必ず自滅する。だから放っておけばいいのだと。せっかくの食事を台無しにされて悔しい気持ちはあるが、一つ徳を積んだと思って帰路に着く。