アプリのお作法③

サヤカは新しい男とマッチングした。年収はサヤカに劣るが、安定した仕事をしていて、趣味もあるし、やりとりのテンポも合う。サヤカはこれでアプリ辞められるかもとすら思っていた。風向きが変わったのは1週間後に会いましょうと約束をした後だった。言葉足らずだったり、返答に困るようなメッセージが多くなった。それでも会うだけは会おうと思っていた最中で、蔓延防止措置が発動される。措置発動は数日前から分かっていた中で、じゃあ明日と言った数時間後に、措置発動のため延期してくれとのことだ。きっともう会うことはないだろうと思いながら、ではまた今度と連絡した後も、度々元気ですか?と連絡が来るが、お互いを知ることに資するような内容の質問もなく、どんどん冷めていくだけだ。サヤカは基本質問のないメッセージに返信は不要だと思っている。そうですね、としか言いようのないメッセージは不快ですらある。措置が解除されそうになった日、解除されますねとだけ来たメッセージはまさにそれだ。会おうという反応を期待していたのだろうと思いながら、そうですね、と返した。これで本当に切れるだろう。

元カレやタイミングが合えば恋愛関係になったかもしれない友人や知り合いを見て思う。この人たちとアプリで出会っていたら間違いなく進んでいなかっただろうと。アプリは難しい。年収・身長・顔だけでスクリーニングして、行間から性格を探る。長らくメッセージのやりとりをして、出会った時に一瞬で無しに振り分けられることは男女ともにある。何とも効率が悪い。

改めて一緒に過ごしたいと思える人と出会えた人は宝探しに成功した人なんだと思う。そしてその宝を守るためなら、周りをどんなに傷づけたって構わないんだろう。だから外で遊んでガス抜きをしたり、自分がどれだけ幸せかをアピールしたりする。

宝探しに成功していない人は、必死になってその確率を少しでも上げるか、自然体に任せてその確率をほぼゼロにするかの二択を迫られる。成功する確率が高かった頃に自分は何をしていたんだろうと思い返しながら。

サヤカはアプリから退会した。