アプリのお作法①

サヤカは初めてマッチングアプリを使い、カルチャーショックを受けていた。マッチングして、メッセージを重ね、ようやくランチに行き、それなりに楽しく過ごした。もう一度会うかは迷いどころだが、お礼ぐらいはしようとメッセージを送ったら、既読にすらならない。

仲の良い友人に相談したところ、「あり」で前に進む時しか連絡はしないのがマッチングアプリ界での礼儀らしい。期待をもたせない、ネガティブなことは言わないのが礼儀だというのは分からなくもないが、仮にも数時間を一緒に過ごして、こんなにもドライなのかと驚いていた。

彼女は気分を切り替えようと別の人とマッチングした。この人はプロフィールがスカスカで不安もあったが、まあいいやとメッセージを続けていた。この人はいかんせん情報の開示に消極的だ。ファーストネームすら開示しない。シングルか?という質問にすら、真正面から答えない。「サヤカさんとってもステキな方なので、もっとメッセージをやりとりしたいです」みたいなことは言ってくる。ところがだ、そのとってもステキな人がウダウダした意味のないやりとりに飽きて、今度お茶でもしますか?と送ると、また「サヤカさんとってもステキな方なので、お会いしたいです」と来るが、いつにしますか?といった内容は一切送ってこないで、違う質問をしてくる。彼女の中で「ない」フラグが立って、質問にだけ答えた放置したところ、「サヤカさんの写真を見たい」とのことだ。サヤカはアプリ上でちゃんと写真を載せていた。限られた写真ではあるが、写真を一切載せていないかのようなことを言われるつもりはないのだ。彼は何枚か追加の写真を見て、顔を確認してから、会うかを決めたいと言うことだろうか。とってもステキな人ではなかったのか。彼女は詰めたい気持ちをグッと抑え、スルーした。その後連絡もあったが、彼女は一度も返していない。

不毛だと思いながらも、彼女はアプリを続ける。いいねを送ってくれる人とマッチングする。ここでまた不思議なことが起きる。いいねを送ってきたくせに、特にメッセージを送ってこない人が多いのだ。誤って送ってしまった人もいるだろう。いいねを稼ぐためにとにかくいいねを送る人たちもいるらしい。結局のところ理由は考えても分からない。いずれにしても不毛だ。(つづく)